この本は怪獣と宇宙人についての本であるが、「宇宙人が登場する映画」というのは大きく二つに分けられると思う。一つはSF映画。もう一つは実際に起きたUFO・宇宙人目撃談を元にして作られた、いわゆる「矢追純一UFOスペシャル」的な世界観で作られた映画である。
さて、この手のUFO映画は、有名な「未知との遭遇」(77年)を始めとして、結構な数が製作されているのだが、そのあたりに関しては小中千昭氏の原稿に詳しく解説されているそうなので、私の方では特におバカな映画だけを紹介する事にしよう。
まず一本目は「実録!UFO大接近・消えた412ジェット機隊」(74年)。
タイトルだけ聞くとUFOとジェット機がバシバシとかっこいい空中戦やりそうな感じであるが、実際にはまったくそんなシーンは無く、たまたまUFOを目撃してしまった空軍のパイロットたちが、政府機関のエージェントたちに監禁されて、「そんなものは見なかった事にしろ!」とネチネチいたぶられるだけの陰湿な映画である。「おいおい、なんだよこりゃ」と思ってたら最後までその調子で、特に盛り上がるトコも無くオシマイ。
ハッキリ言って、観なくていいぞコレ。
つづく二本目は「SFスペース・ウォーズ」(77年・カナダ)。ちょうど「スターウォーズ」や「未知との遭遇」で日本中が盛り上がっていた頃にTV放映されたので、騙されて観ちゃった人も多いと思う。出演は、主役のUFO研究家にロバート・ボーン。悪の宇宙人ラムセスにクリストファー・リー。当時「相方(?)のピーター・カッシングはスターウォーズに出てんのに、クリストファー・リーはカナダの安物映画かよー」という、SF映画ファンの嘆きがよく聞かれたが、筆者も同感である。
さて、中身であるが、前半はUFO映画としては良く出来ている。
ヘリコプターから実物大の模型を吊るして撮ったというUFO飛行シーンは、有名なスイスのコンタクティー、ビリー・マイヤーの撮ったインチキ8ミリフィルムそっくりでなかなかリアルである。この場合「リアル」という表現が適切なのかちょっと悩むが(笑)。
この他にも「UFOに誘拐され、身体検査。その後記憶を消される」とか「UFO内で宇宙人にSEXを強要される」とか「宇宙人の胸のマークが翼のある蛇(ケツアルコアトル・古代アステカ文明の神様)」だったり「夜間飛行時にはUFOがオレンジ色に光る」とか「UFO内に貼ってある星図がヒル夫妻事件に出てくるヤツ」だったりして、UFOマニアなら大喜びのネタがてんこ盛り。
さらに上げると、ロバート・ボーンのUFO研究家が円盤の着陸跡を調べるシーンや、軍人たちが墜落した円盤の残骸を回収するシーンなども、いかにも「矢追純一スペシャル」的な絵面で楽しい。
しかし残念ながら、中盤から後半にかけてストーリーが本格的に展開しはじめると、ヘナヘナとB級SF映画に成り下がっていく。まず、クリストファー・リー率いる悪のアルファ星人たちは、自分の星が滅亡しようとしているので、移住先として地球を侵略しにやってきた、というありきたりのパターン。これに対して地球人の進歩を暖かく見守っていこうという「宇宙同盟」側の宇宙人が、アルファ星人の侵略から地球を守るため戦う、というのが基本プロット。ちなみに悪の宇宙人が黒い服、善の宇宙人が白い服と非常にわかりやすい。
ところで「宇宙同盟」の秘密基地は「海底ピラミッド」の中にあって、他の星からの賓客をもてなす為の「ゲストルーム」にはなぜか半裸のねーちゃんがウロウロしている。直接的な描写は無いが、どー見てもアレは慰安婦であろう。いいのか、おい? とても文明の発達した宇宙人のやる事とは思えないゾ。他に色気のあるシーンが少ないので、観客はちょっと嬉しいが(笑)。
さて、悪の宇宙人たちは海底ピラミッドの乗っ取りに成功し、本格的に地球侵略を開始する。その侵略方法とは、軌道上の円盤から「自殺光線」を地表に向けて発射し、この光線を浴びた人間は次々と勝手に自殺する、というなかなか効率的なモノ。映像的にも大変効率的で(死体がゴロゴロしてるだけ)、金のかかる都市破壊シーンとかをやらなくて済むので、プロデューサーには喜ばれたと思う。
窮地に陥った善玉宇宙人たちは、ロバート・ボーンのUFO研究家と、その友人のコンピューター技師を拉致し、アタマに電極を取り付け「あなた方は今まで脳の1%しか使っていなかったのですよ」とかなんとかゴタクを並べて、なんと「電卓」でUFOの軌道計算をさせるのである。「んな事ができるんなら、自分たちでやれぃ!」と画面に向かってツッコミを入れた人も多いのではなかろーか。おかげでコンピューター技師の方は、無理がたたってか心臓発作でブッ倒れるのであるが、この時の治療方法がスゴい。なんと、小さなピラミッドをおでこに張り付けるだけ(おお、懐かしのピラミッドパワー!)。これで治っちまうんだからノンキな映画である。
ラストは善悪の円盤艦隊入り乱れての宇宙戦争であるが、このシーンの特撮がどーしようもなくショボイ。なんだか高校生の自主製作映画みたいなレベルだ。なまじ前半の円盤飛行シーンの出来が良いだけにもの哀しい。
この映画、「スターシップ・インベーション」の原題でビデオ化されているので、興味のある方は、うらぶれたレンタルビデオ屋の棚のスミなどを探してみるように。
さーて三本目は「SF・謎の宇宙船遭遇」(80年)。原題は「Hangar 18」! そう、UFOマニアはおなじみの「米軍によって墜落した円盤が隠されている」という噂の絶えないライトパターソン空軍基地・第18番格納庫をテーマにした映画である。
ちなみに現実のライトパターソン基地の広報官は、全米中のUFOフリークからドッと寄せられる「墜落円盤回収」に関する質問の返事書きで、一日が暮れるそうである。難儀な話であるなぁ。
出演者はスペースシャトルのパイロット役に「事件記者コルチャック」のダレン・マクギャビン。悪玉の政府高官がロバート・ボーン。また出てるぞボーン。仕事選べよボーン。それともこの手の映画好きなのかボーン。
…と、思ったらボーンの役って、執務室から一歩で出ないで部下に命令下してるだけ。なるほど、安物映画がよく使う、スターを一日だけ拘束してギャラ安上がり、という手法だな。
さてストーリーは、スペースシャトルから発射した実験衛星に、UFOが衝突してしまうシーンで幕を明ける(なんでよけへんねん、UFO!)。その際、船外作業中だった主人公の同僚宇宙飛行士の首がショックでもげ、分断された胴体とヘルメット(もちろん首入り・ご丁寧に中の顔まで見える)がクルクル星空を浮遊していくというカットが入り、非常にヤな気分になる。
地表に墜落したUFOは米軍によって回収、ハンガー18に隠匿される。真実を公表しようとする主人公たちに、政府機関のエージェント(黒服の男たち)の魔の手が…、というよくある展開。ただしUFOの存在を隠す理由が「大統領選が近いので、それに影響するとイケない」というヘナヘナなものなので、だんだんお話なんかはどうでもいい気がしてくる。せめてユ○ヤかフリー○イソンの陰謀ぐらい言えよー!
ハンガー18に運び込まれたUFOは、科学者チームの手によって研究が始められる。ここで画面上に始めてUFOがハッキリとした姿で登場するが、それが「黒塗りの発電機」としか形容できないド不細工なシロモノ。おそらく、古今東西のSF映画史上、もっともカッコ悪いデザインのUFOではなかろうか。
しかしこれくらいでメゲてはいけない。UFOの中から宇宙人の死体も発見されるのだが、これがいわゆる「リトルグレイ」ではなく、ただの白塗りのハゲ親父だったりするので、更にヘナチョコ気分が大増幅!
映画的にはこの後も主人公のカーチェイスシーンがあったり、仲間の飛行士が死んで涙したり、宇宙人が過去、地球人の進化に干渉していた事がわかったりと、いろいろドラマを盛り上げてくれるのだが、すでに萎え萎えになった観客の気分はなかなか回復しないのであった。
ラストは証拠隠滅の為に、CIAの手によって爆弾を積んだ無人飛行機がライトパターソン基地へ特攻! ハンガー18は爆発炎上、科学者チームや警備の兵隊さんたち大量死というヒデぇオチ。ただし、UFOはとっても頑丈なのでその程度の爆発ではビクともせず(だったらなんで墜落したんだよ?)、たまたまその時、中に乗り込んでいた主人公と数人だけが助かり、政府の悪事をマスコミに公表してメデタシメデタシ。とほほほ…。