今の日本で、純粋に「娯楽」に徹して作られてる映画って、いったい何本あるんだ?
小賢しいテーマとか主張とか、カントクの美意識とか感覚とか、そんなモンにはもうウンザリ!
燃えて笑って泣けて、何も考えず素直に楽しめるのはもう劇場版「クレヨンしんちゃん」だけだ。
93年の第1作から毎年コンスタントに制作され、今年の「嵐を呼ぶジャングル」で8本めとなる人気シリーズ。
このシリーズの監督は1〜4作目が本郷みつる、5作目以降は原恵一氏。両氏ともこれまで「ドラえもん」「エスパー魔美」「チン プイ」といった藤子・F・不二雄原作のアニメを手掛けてきた人たち。だから映画のタイトルがどんなに妙てけれんで、しんのすけが画面上で如何にオチャラケようとも、根底の部分では藤子漫画的な「娯楽の基本」をふまえた「正統派まんが映画」になってるのだ。
その上ドラえもんよりアナーキーで自由な作風のクレしんでは、子供を連れてくる親たちの為に、大人にしかわからないクスグリや毒や隠し味やマニアックなシーンもふんだんに入っているので要注意だゾ。
クレしん版「インディ・ジョーンズ」!
ブリブリ王国の秘宝
第2作はうってかわって、クレしん版イン ィ・ジョーンズ!
ことに最後の神殿に入ってからのラスト30分は、本家以上にクライマックスの連続で、サービス過剰なくらい。
見どころはいっぱいあるけど、ブリブリ王国親衛隊・ルル少佐の華麗な格闘シーンとか(お父さんの観客の為に、ちゃんと色っぽいチャイナドレス着てくれるぞ!)、小宮悦子の「ものすごくクダラない理由」での特別出演とかが、大人の喜ぶとこかな?
ところでクレしん映画の悪役は、悪人でもどこかコミカルな事が多いのだが、この映画のアナコンダ伯爵とミスター・ハブは本物の悪党。「お前はもう人間をやめろ! わしの奴隷になれ!」なんてセリフ、なかなか出てくるもんじゃありません。
美少女剣士と巨大ロボットが入り乱れるSF巨編
雲黒斎の野望
今回はSFです。しかも時間旅行・歴史改変ネタです。
戦国時代が舞台となる過去編では少年剣士・吹雪丸が、忍者・浪人・鎧武者・妖術使いといったバラエティ豊かな敵軍団に対して、ありとあらゆるチャンバラアクションを披露してくれます。
この「吹雪丸」は歴代のクレしん映画ゲストの中でもピカ一のキャラ。強くて優しくて純粋で、その上、実は女の子で美人だし。親の仇「雲黒斎」を討たんがため、乙女であることを捨て、剣の道に生きるこの吹雪丸ちゃんだけで、彼女を主役に映画5本は作れちゃいそうな勢いです。
これだけでももう満腹なのに、さらに時間犯罪者ヒエールによって改変された未来編がまたスゴい。街並みやファッションはサイケだし、政治体制は某・北のお国を彷彿とさせるし、この世界のTV放送では「サブリミナル効果」まで多用されてるし!(この映像ギャグは劇場公開時のみ。この年のオウム事件の影響でビデオ版以降は修正されている)
ラストは巨大ロボット2体の大決戦。これがまた巨大感といい重量感といい、アニメ史に残るような名シーンなのだよなぁ。
しんちゃんが戦いに目覚めるアクション・ミュージカル
ヘンダーランドの大冒険
本郷みつる監督作のラストにして、アクション・格闘・ミュージカルから日常と非日常の対比・特別出演ゲスト(雛形あきこ)の使い方に至るまで、総ての面で過去3作品のノウハウをこの1本に注ぎ込んた傑作。
今回のヒロイン、生きている人形トッペマ ・マペットはとってもキュート。スカートをプロペラ状に回転させて飛行するあたりとか、 おしりの穴でゼンマイをまくあたりは、モロ手塚治虫テイスト。こいつが一度もフィギュア化されていないのは何か間違っているぞ!
さらに今までは「5才児」という制約上、 巨大な悪との戦いはアクション仮面や吹雪丸といった別のキャラクターに任せていた野原しんのすけが、今回はついに孤高の戦いを強いられるというハードな展開(魔法のトラン プの助けはあるけど)。
その為、ついに4作目にして、ギャグ漫画のキャラにとっては禁じ手の「人間的成長」まで遂げてしまいます。
この映画以降は、妹 ・ひまわりの登場もあって、本当に「お兄さん」になっちゃうんだよねぇ、しんちゃん。
オカマバーでエスパーを倒せ!
暗黒タマタマ大追跡
監督交代後の第1作。今回は「伝奇ロマン」 な上に、原恵一監督の個性爆発で、めちゃめちゃ渋いです。
なんせ舞台が、埼玉県春日部 市→新宿のオカマバー→健康ランド→郊外のスーパー→青森の霊山というセレクトでロー ドムービーしちゃうんだもん。
今度の敵は、超能力者のヘクソン。こいつがまぁエスパーターミネーターって感じでムチャクチャ強くて怖いんだわ。青森の霊山襲撃シーンの緊張感の高さは、子供向けのアニメ映画としては異常なくらい。でも最後にはひろしとみさえ夫婦の「ミュージカル攻撃」で倒されちゃうんだけどネ。しかも使用曲が「ヒデとロザンナ」…。
女スパイのコードネームは“お色気”!?
電撃!ブタのヒヅメ大作戦
第6作は007ばりのスパイアクション。 しかも「最強最悪のコンピューターウイルス」の争奪戦。銃器とかメカとかアクションとかが、これまた本家007以上の完成度なんだよなぁ。この辺りになると「クレしん映画は出来が良いのがあたり前」なんで、誉め言葉が見つかりにくいんだけど。
それでも驚いちゃうのが、今回のヒロイン・コードネーム“お色気”。
「銃って下品で キラーイ」と言いながら格闘技でビシバシ敵を粉砕するバツイチママさん。これがさぁ、今までのルルとか吹雪丸といった「若いおねいさん」とは違って、ちゃんと肉の付き方とかが「子供を産んだことのある女性」のボディラインになってて、なおかつ艶っぽいのよ。あのクレしんの少ない線で、ここまで描写できるアニメーターさん達の力量に脱帽。
さてメインストーリーは、ぶりぶりざえもんという「外見」に惑わされやすいが、実は「人工知能が倫理と友愛を学ぶ事によって、ウイルスである自らを消滅させる」というSF的に「深い」お話なのだ。ラストは泣けます。
タンバ大暴れの正統派怪獣映画
爆発!温泉わくわく大決戦
99年度作品は温泉と焼肉とオヤジの世界です。強引すぎてなんだかワケわかりませんが、今回も傑作です。
「温泉の精」という異常な役柄で丹波哲朗が特別出演です。全裸で「ぞーさん踊り」までしてくれます。個性の強いしんのすけまでが、さすがに今回はタンバに食われてます。
その上、タイトルからは絶対予測つかないだろうけど、この作品は「大怪獣映画」です。
悪の組織「YUZAME」の開発した巨大ロボット、イメージ的には「地球防衛軍」のモゲラです。都市への進撃の様子とか、車両とかヘリの使い方とか、戦車との対決シーンとか、今のゴジラ映画よりずっと正統派の怪獣映画見せてくれます。その画面に乗せて、クレしんは東宝映画だからちゃんと伊福部昭の音楽使いまくりです。最強です。
でもって悪の首領・Drアカマミレの「世界人類への怨恨」の理由が、ある意味スゴいんだけど、これは自分の目と耳で確認してね!