<スタッフ>
原作:臼井儀人
監督:本郷みつる
脚本:もとひら了
演出・絵コンテ:本郷みつる 原恵一
演出助手:善聡一郎
キャラクターデザイン:小川博司
設定デザイン:湯浅政明
作画監督:堤規至 原勝徳
美術監督:星野直美
撮影監督:高橋秀子
録音監督:大熊昭
効果:松田昭彦
音楽:荒川敏行
編集:岡安肇
プロデューサー:茂木仁史 太田賢司 堀内孝
製作:シンエイ動画 ASATSU テレビ朝日
配給:東宝
<キャスト>
しんのすけ:矢島晶子
みさえ:ならはしみき
ひろし:藤原啓治
アクション仮面:玄田哲章
桜ミミ子/リリ子:小桜エツ子
北春日部博士:増岡弘
園長先生:納谷六郎
副園長先生:滝沢ロコ
よしなが先生:高田由美
まつざか先生:富沢美智恵
風間くん:真柴摩利
ネネちゃん:林玉緒
マサオくん:鈴木みえ
ボーちゃん:佐藤智恵
団羅座也:茶風林
ゾンビリビー:青野武
Tバック男爵:郷里大輔
ハラマキレディA:井上瑶
ハラマキレディB:渡辺久美子
ハラマキレディC:稀代桜子
ハイグレ魔王:野沢那智
<ストーリー>
しんのすけの大好きなTVのヒーロー「アクション仮面」はなんと本物だった! 彼はパラレルワールドである「もう一つの地球」から、TV出演のために現実の世界に出張中だったのだ。しかしその時、宇宙からの侵略者・ハイグレ魔王に襲われ、次元を移動する力の源「アクションストーン」を奪われてしまう。
幻の「No.99のアクション仮面カード」を引き当てたしんのすけは、「アクション戦士」に任命され、父ちゃん母ちゃん、それにシロと共に次元移動する。
そこはハイグレ魔王の配下・パンスト団によって侵略を受けている最中の、異次元の日本だった。しんのすけは「オラがアクション仮面をお助けするぞ!」と、北春日部博士の発明した空飛ぶスーパー三輪車に乗り、シロと共に孤軍奮闘するのだった。
<解説>
テレビ放映で人気爆発した「クレヨンしんちゃん」が、ついに劇場版へと拡大された記念すべき第一作。この最初の作品だけが夏休み公開だったので(以降はGW公開)、内容的にも終業式・夏休み・海水浴など季節ネタが盛り込まれている。
この映画は大きく2パートに分かれており、前半の事件の発端から日常生活の部分を原恵一が。そして後半のパラレルワールドでのハイグレ魔王との戦いの部分を本郷みつるが絵コンテを担当。そんなわけで今作では両演出家の作風の違いを見分けやすいし、映画の構成ともマッチして効果を上げているのだ。
今回は初の映画化という事もあって、前半の日常描写の部分はTVでの「クレヨンしんちゃん」のキャラクター紹介や、定番ネタの披露を丹念に行っている。たとえば、家庭内でのしんのすけとみさえのドタバタ劇、シロのお散歩、ふたば幼稚園でのよしなが先生とまつざか先生の対立、顔が怖くて「組長先生」と呼ばれている園長先生を使った定番ギャグ。またそれぞれの「アクション仮面カードの集め方の違い」で、風間くん・ネネちゃん・まさおくん・ボーちゃんら友人たちの性格を手際よく紹介している辺りはまさに名人芸。(まさおくんはカード片づけるのもいちいちモタモタしてるし、ボーちゃんは抜けてるようで一番マニアックだし、風間くんは情報だけやたら詳しい)
しかも単にTV版のリニューアルというだけではなく、日常に少しづつアクション仮面やハイグレ魔王といった非日常の世界が忍び寄ってくる演出のうまさが際立っている。たとえば、しんのすけが幻のカードを手に入れるのは、過去の世界からタイムスリップしてきたような駄菓子屋なのだ。明るい商店街から裏通りの駄菓子屋にしんのすけとみさえが誘われていくシーンは、押井守作品っぽくもある。
つまり実に慎重に、TVの「クレしん」(日常)から映画の大冒険活劇(非日常)へ移行しているのだ。これはその後の劇場版には見られない、第一作目だけの特徴である。
さて、一転して本郷コンテの後半部分は、アクション、冒険、そしてハイグレ魔王との最終決戦とボルテージがガンガン上がっていく。ただ冒険活劇とはいっても決して殺伐とする事なく(しんちゃんはちゃんと敵であるハラマキレディースの命を助けるのだ)、良質の漫画映画といったその雰囲気は、同じシンエイ動画の「劇場版ドラえもん」のテイストが感じられる。それもその筈、本郷みつるも原恵一も「クレヨンしんちゃん」以前には「エスパー魔美」「チンプイ」「21エモン」といった藤子アニメを手掛けていた人達なのだ。
映画のテーマ的には小さい子供の持つヒーローへの憧れと信頼、そして「もしあのヒーローが実在したら。そして一緒に戦えたら」という純真な夢を描き切っている。さらにメインターゲットの子供たちの親はちょうど「仮面ライダー」世代であり、カード集めとか大百科とか、加えて言うなら「役者の負傷による交代」に至るまで、親の郷愁を誘う小ネタが散りばめられていたのは、なんとこの一作目からだったのである。
<スタッフ>
原作:臼井儀人
監督:本郷みつる
脚本・絵コンテ:本郷みつる 原恵一
演出:原恵一
演出助手:水島努
作画監督:原勝徳 堤規至
キャラクターデザイン:原勝徳
美術監督:野村可南子
設定デザイン:西村博之 湯浅政明
美術設定:星野直美
撮影監督:高橋秀子
ねんどアニメ:石田卓也
音楽:荒川敏行
録音監督:大熊昭
効果:松田昭彦
編集:岡安肇
プロデューサー:茂木仁史 太田賢司 堀内孝
製作:シンエイ動画 ASATSU テレビ朝日
配給:東宝
<キャスト>
しんのすけ:矢島晶子
みさえ:ならはしみき
ひろし:藤原啓治
アナコンダ:富田耕生
ミスター・ハブ:中田浩二
ブリブリ魔人:加藤精三
黒魔人:納谷六朗
ニーナ:尾良有作
サリー:塩沢兼人
王様:宮内幸平
ルル:紗ゆり
スンノケシ王子:山田妙子
小宮悦子:小宮悦子
<ストーリー>
インド洋に浮かぶ南の島ブリブリ王国で、悪の秘密結社ホワイトスネーク団によって、王宮からスンノケシ王子が誘拐されるという事件が起こった。
一方、埼玉県春我部市では商店街の福引きで、しんのすけが特賞「ブリブリ王国五泊六日の旅」を引き当てる。意気揚々と旅立つ野原一家。だがそれはホワイトスネーク団に仕組まれた罠だったのだ。
ホワイトスネーク団のボス、アナコンダ伯爵と部下のミスター・ハブは「それを手に入れた者は世界を支配する力を得る」と言われる、伝説の秘宝を手に入れる事が目的。そして神殿の扉を開くには二つの生きた鍵、スンノケシ王子と、王子とうり二つのしんのすけが必要だったのだ。
世界を支配するに足る力、それはどんな願いも一つだけかなえてくれるブリブリ魔人。だがカギが二つ必要だったように、魔神も二体存在したのだ。ハブの造反により、二人の魔神の対決に。ドサクサに紛れてしんのすけが魔人に頼んだ「小宮の悦ちゃんのサインが欲しい!」という願いは、果たしてかなうのか?(笑)
<解説>
第一作からわずか半年後のGWに公開された「ブリブリ王国の秘宝」。クレしん映画の製作期間の短さと、それでもなお高いクオリティを維持するシンエイ動画の力量は、この頃から既に伝説となっている。
前作で見事にTVから映画へのスケールアップを果たし、この第二作目ではその後のクレしん映画に続く基本フォーマットが完成したと言ってよい(たとえば、石田卓也によるの粘土アニメのオープニングや、有名人ゲストの特別出演は本作から)。
ゲストキャラクターの構成においても、強大な悪役(アナコンダ&ハブ)、コメディリリーフのオカマキャラ(ニーナとサリー)、しんのすけを助けてくれる強いおねいさん(ルル)というフォーメーションは、その後の「ヘンダーランド」「暗黒タマタマ」「ブタのヒヅメ」「温泉わくわく」と受け継がれていく伝統パターンとなった。
キャラクター的にはブリブリ王国親衛隊少佐ルル・ル・ルルが出色の出来。スンノケシ王子を救うためにミスター・ハブと繰り広げる格闘シーンは最大の見どころ。第一ラウンドの狭い列車内での戦いは007映画張りだし、第二ラウンドのチャイナ服に着替えての華麗な戦いは、当時流行していたどの格闘ゲームよりも秀逸。
またアナコンダ伯爵とミスター・ハブの悪役ぶりも、子供向け漫画映画としてはギリギリの描写。ことにしんのすけが「ブリブリ星人〜」とか、TVの定番ギャグをやっても冷静に見下してる辺りは、「これはもう大変な状況になってるんだ」という事がズンと響いてくる名演出。後半のハブの裏切りと、それに激怒したアナコンダが、魔人パワーでハブをロボット奴隷に変えてしまう下りの悪人描写も凄まじい。
演出的には細かくパートを分けて、本郷・原二人でコンテを切っているので、前作のようにはっきりと両演出家の違いを見分ける事は難しい。今回はクレしん版「インディ・ジョーンズ」という事もあって、特に最後の30分、危険な罠に満ちあふれているわ、魔人は出現するわ、アナコンダと黒魔人は合体するわ、小宮悦子は特別出演するわ、神殿は崩壊するわ、ルルはコスプレするわと、サービスてんこ盛りなぐらいに見せ場の連続である。全シリーズ中もっとも力感に溢れていたという印象が強い。
なお、現在改めて見返すと、ひろし・みさえ夫婦のラブラブ描写が多く、この頃はまだ「新婚さん」だったのだなぁと新鮮な印象を受ける。
<スタッフ>
原作:臼井儀人
監督:本郷みつる
脚本・絵コンテ:本郷みつる 原恵一
演出:原恵一
設定デザイン:湯浅政明
キャラクターデザイン:原勝徳
作画監督:原勝徳 堤のりゆき
美術監督:野村可南子 中村隆
撮影監督:高橋秀子
録音監督:大熊昭
OPねんどアニメ:石田卓也
効果:松田昭彦
編集:岡安肇
音楽:荒川敏行
演出助手:水島努
制作:柏原健二 山川順一
プロデューサー:茂木仁史 太田賢司 堀内孝
製作:シンエイ動画 ASATSU テレビ朝日
配給:東宝
<キャスト>
しんのすけ:矢島晶子
みさえ:ならはしみき
ひろし:藤原啓治
シロ/風間:真柴摩利
リング:佐久間レイ
吹雪丸:浦和めぐみ
雪乃:水谷優子
猫之進:戸谷公次
お銀:荻森徇子
髭の浪人:大塚芳忠
園長先生:納谷六朗
よしなが先生:高田由美
まつざか先生:富沢美智恵
店長:京田尚子
中村:稀代桜子
団羅左エ門:茶風林
ジョン青年:山口勝平
雲黒斎:加藤精三
ヒエール:富山敬
<ストーリー>
時間犯罪者を追って30世紀からやってきたタイム・パトロール隊員のリング・スノーストームは、超空間で時空ミサイルの攻撃を受け、20世紀の野原家の庭の地下で身動きとれなくなってしまう。
シロの身体に乗り移った彼女は、野原一家を説得。しんのすけ達の力を借り緊急タイムマシンで戦国時代へワープ。歴史改変の元凶である「雲黒斎」なる謎の人物を追う。
その過程で、雲黒斎を親の仇として復讐を誓う美少年剣士「吹雪丸」(実は女の子)と知り合い、忍者軍団や鎧武者や妖術使いといった様々な敵と戦いながら、悪の拠点・雲黒城に突入する。
そこで見た雲黒斎の正体、それは未来から来た偏執的歴史マニアのヒエール・ジョコマンであった。
未来の技術・タイムスーツの力で「大人しんちゃん」に変身したしんのすけはヒエールを倒す。
かくてめでたしめでたし、20世紀に戻った野原一家だったが、何かがおかしい。そこは逃げ延びたヒエールによって改変された「別の現代」だったのだ! そしてヒエールの雲黒城ロボと、しんのすけの思念エネルギーの産み出したカンタムロボの二大巨大ロボット大決戦に!
<解説>
第三作はSF+時代劇。しかもタイムトラベル、歴史改変ネタを扱った凝った内容。
三つのパートに分かれた構成で、超空間でのリングの戦い〜そして野原一家との遭遇から過去への旅立ちまでの、冒頭部分が本郷コンテ。この辺は実に藤子少年SF、特に「TPぼん」を思い起こさせる展開になっていて、元SF少年としてはなかなか懐かしい気分に浸れる。もっともそこはクレしんだから「SF史上もっともダサいタイムパトロール隊員制服」とかコマめにハズしてくれるのだが。
続く中盤の戦国時代部分は原コンテで、ここの部分もまた凝りまくり。「サスケ」や「伊賀の影丸」を思わせるチャンバラ活劇もあるわ、黒澤明ばりの渋〜い演出もあるわと、アニメにおける時代劇の一つの到達点と言えるだろう。
このパートの実質的主人公である、今作のゲストのおねいさん「吹雪丸」が前作のルルを上回る好印象。強くて優しくて純粋で、その上、父母の仇・雲黒斎を討つ為に「女」の部分を捨てているストイックさとか、一作で使い捨てちゃうのが惜しいくらいの名キャラクター。彼女メインで番外編の映画を五本くらい作れそうな勢いである。最初は生真面目だった吹雪丸が、野原一家と出会ってちょっとづつ柔らかくなるというか、人間味がにじみ出てくるくだりも実に素晴らしい。
さてそんな吹雪丸に対し今回の悪役ヒエールは、自分の趣味の為に悪事を働くマニアック犯罪者という設定で、対比も明確である。この手の悪役が得意な、故・富山敬が淡々とした口調で演じ、ヒエールの陰湿さが観客に印象づけた。なお、この役が富山敬の劇場アニメにおける実質的な遺作。
そしてヒエールを倒してハッピーエンドと思ったのも束の間(実際、ここでエンドマークが出ても大抵の観客は不思議に思わないくらいの充実度)、物語は怒濤の第三部・改変された現代編(本郷コンテ)に突入。この改変された現代は、時代劇にサイケな色調がプラスされた、まさに外人の描いた変なニッポン! 湯浅政明の設定デザインが光る。
政治体制も北朝鮮を意識していたり、リングがいきなりネコスーツ姿で忍者と戦ったり、冒頭の藤子SFとはまったく別な、シュールなSF世界が展開し、本郷みつるの引き出しの多さには感心させられる。
クライマックスは巨大ロボット二体による大決戦。これがまた構図による巨大感や、熟練したアニメートによる重量感の表現が感動的なくらい決まってて、凡百のロボットアニメはこのシーンを教科書にして勉強し直すべし。そして格闘ゲーム調のコマンド入力で発射される必殺技! ここらへんは渋い時代劇パートだけじゃ退屈しちゃうかもしれない子供たちに向けての、最後のサービス大盤振る舞いといった感もあり。
なお、当初はこの「雲黒斎」で映画シリーズは終了という予定だったので、「これでラスト!」の意気込みがあって、本郷・原コンテ部分双方に、両演出家の趣味がいかんなく発揮されている。本郷監督四作品の中ではもっとも作家性が表れていると言ってよい。
<スタッフ>
原作:臼井儀人
監督:本郷みつる
脚本・絵コンテ:本郷みつる 原恵一
キャラクターデザイン:原勝徳
作画監督:原勝徳 堤のりゆき
設定デザイン・絵コンテ:湯浅政明
音楽:荒川敏行 宮崎慎二
美術監督:星野直美 柴山恵理子
撮影監督:高橋秀子
録音監督:大熊昭
効果:松田昭彦
編集:岡安肇
OPねんどアニメ:石田卓也
色彩設計:野中幸子
特殊効果:土井通明
演出助手:水島努
動画チェック:小原健二
制作デスク:柏原健二 山川順一
制作進行:魁生聡
プロデューサー:茂木仁史 太田賢司 堀内孝
製作:シンエイ動画 ASATSU テレビ朝日
配給:東宝
<キャスト>
しんのすけ:矢島晶子
みさえ:ならはしみき
ひろし:藤原啓治
ジョマ:田中秀幸
マカオ:大塚芳忠
ス・ノーマン・パー:古川登志夫
クレイ・G・マッド:辻親八
チョキリーヌ・ベスタ:深雪さなえ
トッペマ・マペット:渕崎ゆり子
ゴーマン王子:保志総一朗
トランプの精:八奈見乗児
園長先生:納谷六朗
よしなが先生:高田由美
まつざか先生:富沢美智恵
風間くん:真柴摩利
ネネちゃん:林玉緒
マサオくん:鈴木みえ
ボーちゃん:佐藤智恵
河村くん:大塚智子
アクション仮面:玄田哲章
カンタム・ロボ:大滝進矢
ぶりぶりざえもん:塩沢兼人
雛形あきこ:雛形あきこ
<ストーリー>
「♪変だ変だよヘンダーランド〜」のCMソングに乗って、群馬県の郊外にオープンした巨大テーマパーク“ヘンダーランド”。
幼稚園の遠足でその遊園地へ出かけたしんのすけは、そこで生きている人形「トッペマ・マペット」に出会う。トッペマには魔法の国の王女、メモリ・ミモリ姫の魂が封じ込められていて、彼女の話によれば、魔法の国を征服した悪のオカマ魔女・マカオとジョマが、現実の世界に侵攻する為の足がかりとして作った基地こそ、ヘンダーランドなのだ。
トッペマから魔法のトランプを託されたしんのすけは、ヘンダーランドからの刺客、悪の雪ダルマ「ス・ノーマン・パー」に付け狙われるハメになり、ついにはひろし・みさえまで誘拐されてしまう。
父ちゃん母ちゃんを救い出すため、魔法のトランプで召還したアクション仮面・カンタムロボ・ぶりぶりざえもんの助っ人軍団と共に、しんのすけは果敢にもヘンダーランドへ乗り込むのだった。
<解説>
本郷みつる監督作のラスト。アクション・格闘・日常と非日常の対比・ゲストキャラの配置・特別出演の有名人(雛形あきこ)の使い方に至るまで、総ての面で過去3作品のノウハウをこの一本に注ぎ込んた傑作。
また前作でややマニアックに走りすぎた反省からか、幼稚園の仲間たちの登場シーンが多めになったり、舞台が遊園地だったり、しんのすけが魔法で飛行機や機関車といった乗り物に変身するなど、随所に子供を飽きさせないための心遣いが盛り込まれている。
逆に「野原しんのすけ」のキャラクター描写に関しては、今までの作品より数段細やかになっている。例えば「ハイグレ魔王」の頃は「アクション仮面をお助けするぞ!」とノリだけで行動していたしんのすけだが、今回はトッペマの説得にも「…オラ、やっぱり怖いし」と、慎重なところを見せるのだ。
しかし、ス・ノーマン・パーに襲われ、父ちゃん母ちゃんを奪われ、追いつめられたしんのすけは、ついに勇気を振り絞り、ヘンダーランドに単身乗り込む事となる。
今までは「五才児」という制約上、巨大な悪との戦いはアクション仮面やルルや吹雪丸といった別のキャラクターに任せていたしんのすけだが、魔法のトランプの助けはあるとはいえ、今回はついに孤高の戦いを強いられるというハードな展開。ここで最初の「珍しく弱気なしんちゃん」の描写が活きてくるわけでもある。
そして戦闘で傷つき倒れたトッペマに涙するしんのすけ。(TVシリーズも含め、しんのすけの「泣く」描写というのは極めて稀)ここでひろしは「みさえ、今俺たちの息子が少しだけ大人になったところだ」としみじみ語る。そう、この時にしんのすけはギャグ漫画のキャラクターとしては禁じ手の「人間的成長」を遂げたのだ。実際、四作目までのしんのすけは「幼児」なのであるが、五作目以降は妹・ひまわりの登場でお兄さんになった事もあって、内面的には「少年」に成長しているのである。
演出面では「ブリブリ王国」と同様に、本郷・原で細かくコンテのパート分けをしているので、「雲黒斎」のようには明確に担当部分の区別は付けづらい。ただしラストの、野原一家VSマカオ・ジョマの追いかけっこシーンは湯浅政明コンテによるもの。この部分は作画からして独特の湯浅パースにデフォルメ、タイミングなので容易に判別できるだろう。
また今回のヒロイン、トッペマ・マペットは原勝徳によるデザインが秀逸。髪の毛に見える所が帽子だったり(飛行時には安定翼になる)、リボンの部分が巨大なネジになっていたり。そしてスカートをプロペラ状に回転させて飛行し、「♪私はトッペマ、あなたのしもべ」とちょっと哀しい歌を唄いながら踊り、おしりの穴でゼンマイをまかないと動けなくなるという設定は、モロに手塚治虫テイストである。クレしんシリーズだけでなく、アニメ・漫画史上最高の「ロボット・人形系萌えキャラ」ではあるまいか。
ところで「敵の拠点が遊園地」「民衆を徐々にその魅力で洗脳していく」「しんのすけは両親を奪われ、その奪回の為に戦う」と、「ヘンダーランドの大冒険」は「オトナ帝国の逆襲」と共通モチーフが多い。この両作品を比較研究してみるも面白いだろう。
なお余談ではあるが、ヘンダー城の構造を説明するCGシーンは、作画監督の堤規至が自分のMacで作成したもの。日本の劇場用アニメの中で、もっとも予算のかかってないCGと呼ばれている(笑)。この堤製CGパートは、その後のシリーズの中でも必ずどこかに登場しているので注目してみよう(Macで処理可能な事が年々進歩しているのがわかるぞ)。
<スタッフ>
原作:臼井儀人
脚本・監督:原恵一
絵コンテ:原恵一
キャラクターデザイン:原勝徳
作画監督:原勝徳 堤のりゆき
美術監督:野村可南子 古賀徹
撮影監督:梅田俊之
録音監督:大熊昭
効果:松田昭彦
編集:岡安肇
ねんどアニメ:石田卓也
音楽:荒川敏行 宮崎慎二
演出:水島努
制作デスク:柏原健二 山川順一 和田泰
プロデューサー:茂木仁史 太田賢司 堀内孝
製作:シンエイ動画 ASATSU テレビ朝日
配給:東宝
<キャスト>
しんのすけ:矢島晶子
みさえ:ならはしみき
ひろし:藤原啓治
ひまわり:こおろぎさとみ
シロ:真柴摩利
ローズ:郷里大輔
ラベンダー:塩沢兼人
レモン:大滝進矢
東松山よね:山本百合子
珠由良の母:水原リン
玉王ナカムレ:山本圭子
ヘクソン:筈見純
チーママ・マホ:島津冴子
サタケ:立木文彦
園長先生:納谷六朗
よしなが先生:高田由美
まつざか先生:富沢美智恵
ネネちゃん:林玉緒
マサオくん:鈴木みえ
ボーちゃん:佐藤智恵
魔人ジャーク:青森伸
まんが家:臼井儀人
<ストーリー>
謎の外国人ヘクソンが携えてきた伝説のタマを巡り、成田空港でホステス軍団(珠黄泉族)とオカマ三兄弟(珠由良族)が乱闘を繰り広げるという事件が起こった。
タマを奪取し、なんとか春日部まで逃げのびたオカマ三兄弟だが、疲れて河原で眠り込んだ所を、シロの散歩で通りかかったしんのすけに、大事なタマを持ち去られてしまう。
そしてタマはしんのすけから妹・ひまわりの手に。光りモノが大好きなひまわりはそのタマを飲み込んでしまう。それを知った三兄弟は、彼らの店である新宿のオカマバーで野原一家に事情を説明する。魔の力を封じ込めた埴輪にそのタマをはめ込むと、魔人ジャークが復活し、その悪の力で世界を征服する事も可能なのだ。
ジャーク復活をもくろむ珠黄泉族の執拗な追跡から、ひまわりの身を守るべく、野原一家と三兄弟、それにこの事件を捜査していた落ちこぼれ刑事・東松山よねを加え、一行は珠由良族の本拠地、青森県「あ・それ山」へと向かう。
だが珠黄泉族の血を引く邪悪なエスパー・ヘクソンが、珠由良の里を襲撃。里を守る古武士七人衆も、霊力を持つ珠由良の母もあっけなく倒され、しんのすけの頑張りも虚しく、ヘクソンにひまわりを連れ去られてしまう。
珠黄泉族の本拠は東京・臨界副都心。彼らはここで魔人ジャーク復活の儀式を行うつもりなのだ。ひまわりを取り戻すため、そしてジャーク復活を阻止するため、一行は東京へと急ぐ。
<解説>
この第五作以降、監督は本郷みつるから原恵一へバトンタッチ。今回は「伝奇ロマン」な上、埼玉県春日部市→新宿のオカマバー→東京ニコニコ健康ランド→郊外のスーパー→青森の霊山と逃避行を繰り広げるロード・ムービーという構成もあって、全シリーズ中もっとも「地味で渋〜い」路線。
こういった舞台の選び方とかに、原恵一の趣味性が反映されている。例えば健康ランドのシーンで、敵方の珠黄泉族はなぜかEXPO'70のテーマソング「世界の国からこんにちは」を歌いながら登場する。また映画後半には臨界副都心の建設中ビルで、大ドタバタが繰り広げられるのだが、ここで行われる「高い場所の恐怖」を使ったアクションは「オトナ帝国」と同パターンである。
さて「地味渋系」とは言うものの、クレしんならではの技量の高さはこの作品でも健在。郊外のスーパーで、バナナやダイコンやカニの足やらを使ったお馬鹿な格闘シーンは「お見事!」だし、ヘクソンが珠由良の里を襲撃していくパートは、とても子供向け作品とは思えないくらいの、異様なテンションの高さが素晴らしい。
さらに「人の心が読める超能力者」なので、どんな攻撃も予知してかわせる最強の敵ヘクソン。その彼を倒すための手段が「歌で頭の中を空白にしながら攻撃する」という無茶な設定! ひろしとみさえが、ヒデとロザンナの「愛は傷つきやすく」(二人の想い出の曲)を熱唱しながら、ヘクソンに立ち向かっていくクライマックスは、音楽演出の秀逸さも相まって、ギャグに笑っていいんだか感動していいんだが、どう受け止めればいいのか迷うような名シーン。思えば「オトナ帝国」の演出に見られた、一つのシーンに笑いと感動の二層構造の意味があるという技法も、この「暗黒タマタマ」の時点で完成されていたのである。
惜しむらくはオカマ三兄弟やヘクソン、それに悪人なんだけど子供には甘い挌闘家サタケ、中村玉緒をモデルにした玉黄泉族の頭領ナカムレといったゲストキャラクターの個性が強すぎ、主役のしんのすけ・ひまわりが食われてしまってる事。
また今回の「おねいさん」キャラ、東松山よねも頑張ってはいるものの、吹雪丸やトッペマといった歴代ヒロインに比べるとキャラクター的に弱いのも否めない。
<スタッフ>
原作:臼井儀人
脚本・監督:原恵一
絵コンテ:原恵一
演出:水島努
作画監督:原勝徳 堤のりゆき
キャラクターデザイン:原勝徳
設定デザイン:湯浅政明
美術監督:川井憲 古賀徹
撮影監督:梅田俊之
録音監督:大熊昭
効果:松田昭彦
編集:岡安肇
ねんどアニメ:石田卓也
音楽:荒川敏行 宮崎慎二
プロデューサー:茂木仁史 太田賢司 堀内孝
製作:シンエイ動画 ASATSU テレビ朝日
配給:東宝
<キャスト>
しんのすけ:矢島晶子
みさえ:ならはしみき
ひろし:藤原啓治
ひまわり:こおろぎさとみ
お色気:三石琴乃
筋肉:玄田哲章
バレル:山寺宏一
ママ:松島みのり
ブレード:速水奨
ぶりぶりざえもん:塩沢兼人
園長先生:納谷六朗
よしなが先生:高田由美
まつざか先生:富沢美智恵
風間くん:真柴摩利
ネネちゃん:林玉緒
マサオくん:鈴木みえ
ボーちゃん:佐藤智恵
大袋博士:滝口順平
アンジェラ小梅:増岡弘
マンガ家:臼井儀人
IZAM(SHAZNA)
マウス:石田太郎
<ストーリー>
東京上空に浮かぶ飛行船の中から「最強最悪のコンピューターウイルス」の入ったCD−ROMを盗み出した女スパイ「コードネーム:お色気」は、敵に発見され海面へと脱出。
湾上では折しもふたば幼稚園の一行が、園長先生が商店街の福引きで当てた屋形船で宴会中だった。体力を消耗したお色気は、しんのすけ達が乗った船に助けを求めるが、屋形船はお色気としんのすけ・風間くん・ネネちゃん・ボーちゃん・マサオくんら園児五人を乗せたまま飛行船に連れ去られてしまう。
行方不明となったしんのすけを心配するみさえ・ひろしの前に、世界平和を守る組織SMLの「コードネーム:筋肉」と名乗る大男が現れ、事情を説明する。
飛行船は世界征服を企む秘密結社「ブタのヒヅメ」の物で、彼らはウイルスを使ったサイバーテロを計画していたのだ。ひろしとみさえの二人は「危険が大きい」という筋肉の説得に耳を貸さず、無理矢理ヒマラヤ山脈のブタのヒヅメ本部まで付いていく。
ところがその「最強最悪のコンピューターウイルス」とは、もともと春日部に住んでいた大袋博士が、しんのすけの落書きキャラクターである「ぶりぶりざえもん」に触発されて開発した電子生命体だった。ぶりぶりざえもんが悪事を働くのを止めるため、しんのすけはサイバー世界で彼を説得する事となる。
<解説>
第六作は前作とはうってかわって「007ばりのスパイアクションもの」と派手な展開を見せる。
銃器、メカ、アクションは本家007以上の充実度とサービスぶり。また007映画には付き物の「美女」にしても、「銃って下品でキラーイ」と言いながら、格闘技でビシバシ敵を粉砕する「お色気」が冒頭から全編に渡って大活躍だ。こういう「強〜いおねいさん」がしんのすけのガード役というキャラクター配置も、クレしん映画の基本フォーマットを踏襲している。
ただしこれまでのルルや吹雪丸や東松山よねといった「若いおねいさん」と違って、お色気は子持ちのバツイチママさん。ちゃんと肉の付き方とかが「子供を産んだことのある女性」のボディラインになってて、なおかつ艶っぽいのだ。あのクレしんの少ない線で、ここまで描写できるアニメーターさん達の力量には脱帽である。
また今までの映画ではほとんど活躍の機会が無かったしんのすけの友人たち(風間・ネネ・マサオ・ボー)に、「カスカベ防衛隊」として見せ場が与えられたのもこの第六作から。この五人の掛け合いは第八作「嵐を呼ぶジャングル」を経て、「オトナ帝国」のバーや暴走バスのシーンに結実する。
さて映画の後半、一人でおいしい所をさらっていくのが、もう一人の主役・ぶりぶりざえもん。湯浅作画による「ぶりぶりざえもんの活躍想像ビデオ」の部分は、卑怯でアナーキーでパワフルな彼の魅力を描ききった快パートだし、逆にしんのすけの説得に目覚め、人を助ける事の大切さを知り、ウイルスである自らを消滅させていくシーンは実に感動的(今までのTVシリーズや、「ヘンダーランド」の時にしんのすけを裏切りまくっていたぶりぶりざえもんを知っている昔からのファンなら、ここで更に感動が増す)。
そして「ぶりぶりざえもん」という外見に惑わされやすいが、これは「人工知能が倫理と友愛を学ぶ事によって、自己犠牲の精神を獲得する」というSF的にも「深い」ストーリーである事を忘れてはなるまい。
さらにこの映画が公開された二年後に、ぶりぶりざえもん役の塩沢兼人が事故で逝去した事もあって、ラストの燃えさかる炎の中に消えていくぶりぶりざえもんのカットなどは、今や涙無くしては観られないものとなった。
この様に一本の映画の中で、キャラクター・アクション・ギャグ・感動がバランス良く盛り込まれており、シリーズ中、完成度・評価共に高い作品である。
<スタッフ>
原作:臼井儀人
脚本・監督:原恵一
絵コンテ:原恵一 水島努
演出:水島努
作画監督:原勝徳 堤規至 間々田益男
美術監督:高野正道 天水勝
撮影監督:梅田俊之
録音監督:大熊昭
効果:松田昭彦
編集:岡安肇
音楽:荒川敏行 浜口史郎
ねんどアニメ:石田卓也
制作デスク:魁生聡
プロデューサー:茂木仁史 太田賢司 堀内孝
製作:シンエイ動画 ASATSU テレビ朝日
配給:東宝
<キャスト>
しんのすけ:矢島晶子
みさえ:ならはしみき
ひろし:藤原啓治
ひまわり:こおろぎさとみ
草津:小川真司
後生掛:引田有美
指宿:田村ゆかり
カオル:折笠愛
ジョー:岩永哲哉
青年アカマミレ:中村大樹
アカマミレ:家弓家正
園長先生:納谷六朗
よしなが先生:高田由美
まつざか先生:富沢美智恵
上尾先生:三石琴乃
風間くん:真柴摩利
ネネちゃん:林玉緒
マサオくん:一龍斎貞友
ボーちゃん:佐藤智恵
自衛隊隊長:玄田哲章
ぶりぶりざえもん:塩沢兼人
団羅座也:茶風林
臼井儀人:臼井儀人
温泉の精:丹波哲郎
<ストーリー>
慰安旅行で温泉へ行ったふたば幼稚園の先生たちは、謎のロボット怪獣を目撃する。その騒ぎで幼稚園は臨時休園。のんきに散歩に出たしんのすけは「丹波」と名乗る不思議な男と出会い、仲良くなって自分の家の風呂に入れてやるのだった。
その後、野原一家は「不発弾処理」のためという名目でパトカーに乗せられ、「温泉Gメン」の秘密基地に連れ去られる。温泉Gメンとは全国の温泉を維持管理する極秘の政府機関。先生たちの見たロボット怪獣は、逆に風呂嫌いのテロ組織「YUZAME」が、温泉を破壊する為に作ったものなのだ。
YUZAMEの陰謀を阻止するには、伝説の温泉「金の魂の湯」のパワーが必要。その略称「きんたまの湯」の源泉は、なんと野原家の地下に埋まっているのだ!
自宅の庭を掘り返される事を快く思わないひろし・みさえ夫婦だったが、Gメン本部をYUZAMEが奇襲攻撃。YUZAMEに捕らえられた野原一家は、恐怖の「不健康ランド」で過酷な拷問を受ける。
そしてついに始まった巨大ロボットの侵攻。自衛隊の攻撃も全く歯が立たない。
野原一家は温泉の精「丹波」から「正しき入浴者」と認められ、金の魂の湯のパワーを得て変身。家族の平和を取り戻すためにYUZAMEと戦うのだった。
<解説>
第七作は温泉と焼肉とオヤジの世界。またまた五作目の渋い趣味路線に回帰したとも言えよう。
いやいや。というよりは、クレしん映画を極めた六作目の後なので、新しい路線を模索しはじめたというべきか? たとえば特別出演の丹波哲朗は、あの個性の強いしんのすけを食う程の存在感だし、中盤の巨大ロボの出現から自衛隊の戦闘シーンは、伊福部昭の音楽を使いまくってまで怪獣映画のパロディをやっているし、YUZAMEの首領、Dr.アカマミレの悪に走った動機と言うのが「30年前に行きつけの銭湯で、自分の指定席だった3番の下駄箱を取られた屈辱から」というムチャクチャさ。
ここで「長嶋の3番で無きゃイヤなんだ〜!」「わかるぞ、長嶋はそういう選手だった」などという掛け合いは、絶対に子供の観客には判らない、親の世代に向かっての捨て身のギャグである(この部分の回想シーンなども含めて、「オトナ帝国」に共通する要素多し)。
つまり「温泉わくわく」では、原監督はバランスを取る事を止め、その結果各シーンが暴走しまくり、フルパワーで強引に90分間を押し切る形の映画になっているのだ。六作目までが「良質な漫画映画」だったのに対して、観客を「なんだ、これは!」「こんなアニメ今まで見たことない!」と、唖然呆然とさせる映画という、新しい境地を開いたとも言えよう。
また「暗黒タマタマ」や「ブタのヒヅメ」でもその萌芽は見られるものの、明確に「家族」がテーマになったのもこの作品からである。「ヘンダーランド」や「ブタのヒヅメ」といったクレしん映画の王道から、異色の傑作「オトナ帝国」に至る過程が「温泉わくわく」なのである。
なおこの年に限り「クレしんパラダイス!メイド・イン・埼玉」(監督・水島努)という短編が併映となっている。大人向けの内容の本編に比べて、こちらはギャグいっぱいのサービス路線。逆に言えばこちらで年少の観客層の要求を満たしているので、本編では安心して暴走や実験を行ったのかもしれない。
<スタッフ>
原作:臼井儀人(らくだ社)
脚本・監督:原恵一
絵コンテ:原恵一 水島努
演出:水島努
作画監督:原勝徳 堤のりゆき 間々田益男
キャラクターデザイン:湯浅政明 原勝徳
美術監督:川井憲 天水勝
撮影監督:梅田俊之
録音監督:大熊昭
編集:岡安肇
ねんどアニメ:石田卓也
効果:松田昭彦 原田敦(フィズ・サウンド・クリエイション)
音楽:荒川敏行 宮崎慎二
チーフプロデューサー:茂木仁史 太田賢司 堀内孝
プロデューサー:山川順市 和田泰 岩本太郎 生田英隆
制作デスク:高橋渉 魁生聡
製作:シンエイ動画 ASATSU-DK テレビ朝日
配給:東宝
<キャスト>
しんのすけ:矢島晶子
みさえ:ならはしみき
ひろし:藤原啓治
ひまわり:こおろぎさとみ
風間くん:真柴摩利
ネネちゃん:林玉緒
マサオくん:一龍斎貞友
ボーちゃん:佐藤智恵
アクション仮面:玄田哲章
風間ママ:玉川紗己子
ネネママ:荻森徇子
マサオママ:大塚智子
園長先生:納谷六朗
よしなが先生:高田由美
まつざか先生:富沢美智恵
上尾先生:三石琴乃
酢乙女あい:川澄綾子
北春日部博士:増岡弘
桜ミミ子:小桜エツ子
TVレポーター:伊藤美紀
キャプテン:徳丸完
航海士A:大西健晴
航海士B:岩永哲哉
航海士C:土門仁
パラダイスキング:大塚明夫
ペガサス:小林幸子
<ストーリー>
アクション仮面の新作映画が公開される! 野原一家、それに風間くんやネネちゃん達、カスカベ防衛隊の面々も、親子連れで豪華客船での特別試写会「南海の楽園10日間の旅」に参加していた。
しかしその船上試写会の最中、子供たちを除いた大人全員が、凶暴な猿の群れによって南海の孤島に連れ去られるという怪事件が勃発。
その島はアフロヘアなファンキー怪人・パラダイスキングと名乗る男に支配された狂気の王国だった。猿を支配するのに飽き足らなくなった彼は、人間の奴隷を求めていたのだ。ひろし達大人は、パラダイズキングの偉大さを称える巨大な銅像や、アニメ「パラダイスキング物語」を製作する仕事に強制的に従事させられる。
大人たちを救出すべく島に渡ったしんのすけとカスカベ防衛隊は、冒険とサバイバルの果てにパラダイスキングの居城に潜入。得意の「ケツだけ歩き」で「未知のものには過剰に反応する」猿の習性を利用して、軍団をパニックに陥らせ、大逆転勝利をおさめる。
一方、パラダイスキングは子供達の心を支配するため、彼らのヒーローを叩きのめすところを見せつけようと、アクション仮面の衣装を付けた俳優・郷剛太郎を決闘の場に引きずりだす。野生の戦いでアクション仮面を次第に圧倒するパラダイスキング。
「がんばれ!アクション仮面!」しんのすけの必死の声援が続く…。
<解説>
シリーズ中、もっとも異質な作品がこの「嵐を呼ぶジャングル」である。
物語のメインが、野原しんのすけ・アクション仮面・パラダイスキングという三人の漢(おとこ)の力と意地のぶつかりあいの「ガチンコ勝負」といったシンプルな構成。
今回はしんのすけを助けてくれる強いおねいさんは登場しない。オカマのコメディリリーフも無し。悪のキャラクターもパラダイスキング一人に絞り、余計な子分は出さない。今までのシリーズに比べるとゲストキャラの数が極端に減らされている。
つまり、今までのクレしん映画の「バラエティ路線」を惜しげも無く捨て去ったのだ。これは「温泉わくわく」の暴走を経た原監督が、本郷前監督が作ったフォーマットからの完全脱却を目指した、とも言えるだろう。
もっとも象徴的なのが、アクション仮面の扱い方である。本郷演出ではアクション仮面は常に「本当にスーパー能力を持ったヒーロー」として描写されている。第一作「アクション仮面VSハイグレ魔王」ではパラレルワールドからやってきていたし、TV版17話Aパート「アクション仮面に会うゾ」の回では、遊園地の野外劇場ショーにやってきたアクション仮面が、しんのすけの願いに応えて本当にビームを放つのである。
普通のアニメなら「ビーム出して〜、空飛んで〜」という子供の願いに困り果てる役者さん、みたいなギャグで落とす部分である。だが本郷監督は「そういうのは大人の視点で、子供はショーに出てるヒーローは仮面を付けた役者なんだからビーム出ない、って聞いたって面白くないんだよ」という考えから「作中ではアクション仮面は実在」という方針を貫き通した。
TVシリーズ初期からクレしんに参加している原恵一は(初担当回は第3話)、もちろんその設定を熟知しているはずである。だがあえて「嵐を呼ぶジャングル」では「アクション仮面は郷剛太郎という役者が演じる架空の存在」という、リアルな形に設定を変更した。したがってこの作品内ではアクション仮面はビームを出す事は不可能。ジェット装置の助け無しには空を飛ぶ事すら出来ない。
しかし、だからこそパラダイスキングとの決闘が盛り上がるわけだし、しんのすけの「今はやられてても、最後は絶対勝つんだ」というセリフが観客の心に響くという、最大の演出効果を上げているのである。「第一作と矛盾する」という声もあるが、今までの枠を壊してでも、映画の完成度を高めようとした試みを評価したい。
一度完成した世界を捨て去っても、次の高みを目指す。アクション仮面とパラダイスキングの対決はそんな意味が込められた戦いだったのだ。この破壊の痛みをくぐり抜けた後だからこそ「オトナ帝国」が誕生したとも言えるだろう。
さらに補足するなら「いなくなった大人たちを求めて、カスカベ防衛隊のメンバーが奮闘する」といったシチュエーションは「オトナ帝国」と共通している。また第五作と第六作は原恵一が一人で絵コンテを切っていたが、「温泉」「ジャングル」「オトナ帝国」は原恵一と水島努のWコンテ体制。
水島努はTVのクレしんの各話演出で頭角をあらわした演出家で、本年春からは同じシンエイ動画作品「ジャングルはいつもハレのちグウ」でチーフディレクターに昇格。「オトナ帝国」での担当パートの解析など、ファンにとっても研究しがいのある要注目の演出家だ。